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ちいさな指輪の交換

僕は自分で身に付けるシルバーの

アクセサリーを自分で作っている。

シルバー粘土で成形して

トースターで焼く、とてもかんたんな物だ。

シンプルで目立たず独創的なもの

下手の横好きで楽しくやっている。



ある夏の日、よくお世話になっている

近所の喫茶店に行った。

おいしい水出しコーヒーと

しずかな空間を提供してくれる

お気に入りのお店だ。

いつものようにコーヒーをすすりながら

ぼんやりと本をめくっていると

左のほっぺたにやわらかい風を感じた。

振り返ると

幼稚園生くらいの小さな女の子が

椅子にひざ立ち

これまた小さなうちわで

こちらを扇いでいた。

少しほうけてきょとんとしていると

すずしいですか?と

にこやかに聞いてきた。

うん。ありがとうと答え

本に視線を戻すも

やわらかい風は止まなかった。

何を読んでいるのか

どんなお話なのか

のどはかわいてないか

まだすずしいですか?など

つたない言葉で話しかけられた。

僕の乏しい社交性でも

コミュニケーションできるほどに

女の子は人懐っこかった。

しばらくすると喫茶店のマスターが

こちらに気づき女の子を諭してくれた。

口ぶりから察するにマスターの

お孫さんなんだろう。

僕にしてはめずらしく

この他愛ない会話を続けていたいなと思っていた。

丁度良いボリュームとペースで話すその女の子は

周りを笑顔にする先天的な雰囲気があるように思えた。

帰り際、会計を終えた僕のところに

女の子が駆け寄ってきた。

握られていた小さな手を

僕の前で開くと

中には緑色の透明プラスチックの

小さな指輪が入っていた。

宝物だけどあげると言ってくれた。

そしてまた来てくださいと。

その日はとてもいい日になった。



仕事が忙しい時期をようやく抜けると

もう夏は終わっていた。

久しぶりの休みの始まりは

あの喫茶店でむかえることにした。

飽きもせず水出しコーヒーをすすりながら

本をめくっていると

こんにちはと、かわいい声をかけられた。

見ると少し日焼けした

あの女の子が笑顔で立っていた。

合いも変わらず

他愛ない質問を浴びせられた。

ふと手元を見ると

女の子はピンクのプラスチックの

ケースを持っていた。

それは何かと聞くと

宝物なんだと答え

開いて見せてくれた。

ベロア地で紙製の台座に色とりどりの

プラスチックのアクセサリーが

配置されていてそれぞれが

ピッタリと収まるくぼみに

はめられていた。

子供用のジュエリーケースと

その中身たちだった。

何の気なしに

唯一何もはまっていないくぼみを指差し

これは?と聞いてみた。

女の子はあなたにあげたと答えた。

はっと思い、かばんに入れっぱなしだった

あの指輪を取り出した。

はめてみるとピッタリと収まり

ケースはきれいな全体像を見せた。

全部そろっていたほうがきれいだから

返そうかと提案したけど

女の子は頑なに受け取らなかった。

申し訳ないなと思いつつ

ふと自分の指を見て

不恰好な手製のシルバーリングが

はまっていたことを思い出した。

するっとはずして

女の子の手に握らせると

彼女は飛び上がって喜んでくれた。

昼過ぎの店内が大騒ぎになるほどに

喜んでくれた。

僕が受けた喜びの表現のなかで

今のところ生涯一ストレートで

心にしみる姿だった。

お礼でもお返しでもなく

単純に心から喜ぶ事が

人を幸せにすることもあるんだなぁ。



だから僕はとても大切な

指輪の交換をもう経験している。

いつかしてみたいと思う

本当の指輪の交換とは別に

僕を人間らしくあたたかくしてくれた

ちいさな指輪の交換を





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mokuさんの文章は、読んでいると映像が見えてきますね。時々、昭和を、私の子供のころに感じた気持ち・見た風景とどこかシンクロしてる気分になります。
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